
自分が自分らしくいるために。捨てられるはずのものでカフェを作った。
2020.2.25
2020.2.25
こんにちは!
宮城県気仙沼市在住のライター、柴田葵です。
2019年3月、気仙沼に新たな癒しの空間が現れました。
『日用品と喫茶 ハチワレ堂』です。
癒しがほしいと感じた時、ふと思い立って行きたくなるような、ほっと一息つける可愛らしいカフェ。
グランドオープンしたのは、3月22日のこと。
「さっきハチワレ行ってきて…」
「ハチワレの新しいメニューが…」
『ハチワレ』と呼ばれ、気仙沼生活の中でよく話題にあがります。
そんなハチワレ堂は、どんな場所なのでしょうか。
一緒に入ってみましょう。
中に入るとすぐに出迎えてくれるのは、たくさんの雑貨たち。
そのバラエティの豊かさは、お皿やマグカップなどの食器から、ルームスプレーや靴下、ハンドメイドのアクセサリーなど、つい目移りしてしまうほど。
思わず見とれていると、「いらっしゃいませ〜」と柔らかい声が。
オーナーの尾形綾美(おがたあやみ)さんです。
『ああ、この場をつくった人だ』と納得の、癒しを与えてくれる笑顔と雰囲気を持った女性です。
カウンターの向こうの綾美さんに、早速注文を。
飲み物と、せっかくだからおやつもいただくことにしました。
少し歩いて暑かったので、選んだのはコーラフロート。
なんとコーラは自家製!!
他には出せない味です。
それに限定品の、宇治抹茶のロールケーキ。
この素敵な空間で、お腹も心も満たされました。
そこでふと疑問が。
どうしてこのカフェをオープンしたんだろう…。
綾美さんって、どんな方なんだろう…。
元々知り合いではいましたが、あまり長くお話したことがありませんでした。
この機会に聞いちゃえ!
ということで、今回はハチワレ堂のオーナー、尾形綾美さんにお話を伺ってきました。
尾形綾美さん
宮城県気仙沼市出身、在住。
2019年3月、カフェ『日用品と喫茶 ハチワレ堂』をオープン。
マスキングテープを使ったアート作品の製作活動もしている。
この記事の目次
それでは綾美さん、よろしくお願いします!
葵ちゃん、よろしく〜!
それにしても、ハチワレ堂がオープンしてまだ半年も経ってないって、信じられないです。
もっと前からあるような…。
私も本当にそう思うの!オープンして結構経ったな〜って感じるけど、実はまだそんなに経ってないんだよ。
ちゃんと週2日休んでるのにこんなに濃くて長いなんてね。
週1以上のペースで来てくれる常連さんもいて、すごくありがたいな。
綾美さんは、気仙沼出身なんですよね。
生まれてからずっと気仙沼に住んでるんですか?
ううん。高校を卒業した後に1回出てるよ。
中学、高校とずっとテニスをやっていて、そのあと仙台の専門学校で2年間スポーツについて勉強をした。
帰ってきたきっかけは、就職したテニススクールでコーチをしてたんだけど、ある時からドクターストップで運動できなくなったこと。
気仙沼を離れていたのは5年くらいかな。
(コーチ時代の綾美さん)
スポーツ漬けの日々だったんですね!
なんだか今のふんわりした綾美さんからは想像がつきません…!
気仙沼に帰ってきてからはどんな仕事をしていたんですか?
帰ってきて、地元のコーヒーショップで7年間働いてたよ。
ずっと「これしかない」と思ってやってきた運動が急になくなった時に、じゃあ私は何をしたいんだろうって考えたな。
人と接することが好きだから接客業をしようと思って、カフェに辿り着いた。
コーヒーが好きだったんですか?
実は最初、コーヒーが一滴も飲めなかったの。
面接のときにコーヒーを出してくれたんだけど、内心「どうしよう…」って焦った(笑)
さすがに残すのは申し訳ないと思って、正直に「飲めません」って言ったら、面白かったみたいで採用してもらえたっていう。
きっと、嘘をつかなかったことが好印象に繋がったんですね。
それにしても、味を覚えるには苦手でも飲まないといけなかったのでは?
まさに、試飲があったの。それが苦痛で苦痛で(笑)
だけど、苦手だからかは分からないけど、どうして飲みづらいとか、これはこんな味だから飲みやすいとか、そういう違いの発見に他の人より長けてたんだよね。
毎朝飲んだコーヒーの酸味や苦みの強さとかをノートに記録したりもしてた。
私は飽きっぽいから、それが7年も続いたのは奇跡だと思ってる。
毎朝記録をとっていたなんてすごい…!
7年続いたそのお店は、どうして辞めることにしたのでしょうか?
ぼんやりと、何か新しい事を始めたいなと思っていたんだよね。
でも店長を任されていて、私がいないとこのお店がまわらないんじゃないかって勝手に思ってて(笑)
ある時、体調を崩して初めて一週間休んだの。家で天井を眺めながら、「このまま死んだら、きっと他人軸で生き続けている自分に後悔する」と思った。
死ぬ直前に後悔したくはないですね。
そうなの。それで決定打は、体調が治ってお店を覗きに行ったら、私がいなくてもお店が問題なくまわっていたこと。
「私がいないと」っていうのが思い込みだったことに気付いて、辞められるなって。
そうだったんですね。責任が重大な店長っていう立場であっても安心して「辞められる」と思える職場って、素敵だなと思います。
「何か新しい事を始めたいと思っていた」と仰っていましたが、カフェを退職した後に何かを始めたのですか?
辞めた後、じゃあ自分は何をしたいんだろうってゆっくり考えようと思って、初めて一人旅に出たの。
猫を飼ってるから一週間だけだったけど。
一人旅!素敵!その旅で得たことはありますか?
やりたいことをやっている人って、やっぱり楽しそうだなって改めて気がついた。
私も、やりたいことを責任を持ってやる人生を送れたらなって。
当たり前のようで、案外気がつきにくいことかもしれませんね。
その旅の後はどのように過ごしていたのでしょうか?
カフェで働いていた時から、マスキングテープを使った作品を作ってたの。
ポストカードを売ったり、ワークショップを開いたり。ものづくり系のお仕事をしながら一年くらい過ごしたかな。
綾美さんの“やりたいこと”は、ものづくりだったんですか?
ううん。それが本当に好きな事じゃないんだなって、その時に思った。
それなりに好きだけど、仕事にして続けていくことはできないなって。副業とか、空いた時間にやるものとして今は細々と続けているよ。
マスキングテープの作品作りは副業なんですね。
では、本業とするものとして見つかったのが、このハチワレ堂ですか?
そうだね。
自分でお店を持つ事を考え始めたのは、いつ頃でしたか?
それがね、前から考えていたわけではなくて、いきなりだったの。
いきなり、とは?
カフェの失業保険もなくなり、貯金を切り崩して生活している状態の中で、「次に何をするか、ゆっくり考えたら?」って言ってくれた同居人に甘えてしばらく過ごしていたんだよね。
でも、さすがにそろそろ動かないとなって思って、まずは物件を探そうって思ったの。
…物件?
お店を持とうとも思ってなかったのに、物件から探したの(笑)場所を見つければ何か進むかもって。
それで気仙沼の空き家を車で回ってみたら、すごく気になる場所が見つかってね。それが今のハチワレ堂なんだ。
この場所が気になったからこそ、今ここにハチワレ堂があるってことですね。不思議な縁を感じます。
あの時は本当に、ここしか気にならなかったな。大家さんを探してお話を聞いたら、ご夫婦2人とも美大卒で、スナックだったこの場所を自分たちで改装しようとしていたところだったの。
改装後に誰かに場所を貸そうとしていて、それも昼間に何かやる人を探していたみたいだった。
私も丁度昼間に何かしようと思っていたから、「やります!」ってその場で言っちゃった(笑)改装も自分たちでやるから、安く貸してほしいって交渉もして。
(改装中の様子。楽しそう…。)
そんな「ノリで」みたいな感じだったんですね…!
何をするか全く決めてないのにね。
でも、雑貨屋さんをやってみたいっていうのはあったから、それにしようって思った。
雑貨屋さんだけでは人が呼べないと思ったのと、改装前はスナックだった場所だから飲食営業の許可が取りやすかったのもあって、カフェと合わせたお店にすることにしたんだ。
独立して、自分のカフェを持ちたいと思っていたんですか?
ううん。たまたま営業許可が取りやすくて、自分も7年間カフェで働いていた経験があるからっていうだけだよ。
不思議なことに、物事が決まる時ってこんなにスムーズなんだなって思った。
じゃあ、ものづくりの仕事をしていて「これは仕事にはできない」って思ったのとは逆に、このハチワレ堂はこれからも続けられるなと感じたんですか?
そもそも私は、無理して長く続ける必要はないと思ってる。
自分がやりたくなかったら辞めるよ。もしかしたら、この場所でまた違うことをするかもしれないし、他の場所でやりたいことが見つかったら飛んでいくし。
ずっと、この場所でこのハチワレ堂を続けたいとは思わなくて、自分が自分らしくいられる場所に、常にいたいっていう感じかな。
「続けなきゃ」と変に気負わず、自然体でいる綾美さんが素敵すぎます。
自分自身が幸せじゃないと、やってる意味がないんじゃないかなって。
今までは「人のために」と思ってやってきたけど、何か違うなって気がついた。
今は自分の幸せを第一に考えて、それが周りに伝染していったらいいなと思っているよ。
このお店が、訪れる人にとってどんな場所であってほしいですか?
最初、どういうお店を作ろうって考えた時に思い浮かんだのが、家以外で1人になって自分の時間を過ごしたい人が落ち着ける場所。
例えば、自分の時間をとることが難しいママたちが、子供を預けたあとに立ち寄ってリフレッシュしたり。
もちろん子供がいない人でも、ふらっと来て休める場所でありたいなと思う。
ハチワレ堂の、ゆったり時間が流れているような雰囲気が好きで、私にとって『1人では行きづらい感』が全くないです。
ありがとう。それは少し意識しているんだよね。優しいお店でありたいなって。
優しいお店?
オシャレなお店ってさ、行くの怖くない?
「私なんかが行っていいのか…?」って思います(笑)
それそれ!
私もオシャレなお店に行く時すっごい緊張して、「お店の人が怖かったらどうしよう」って思うのね。だけど、予想外に優しい人だと安心するの。
だから、ここに初めて来る人にも、そうやって安心してもらえるといいな。
あ、悪い事したら怒るけどね!
それもまた優しさですもんね(笑)
改装も自分たちでやったっていうのが、またいいですよね。
内装へのこだわりはどういったところにありますか?
そうだな…。壁はこだわりのひとつだね。
この白い壁ですか?
これね、真っ白じゃないんだ。
最初に真っ白のペンキのまま塗ったら、青白くて、すごい冷たい感じがしたの。
柔らかい色にしたいなと思って、どうしたかというと、コーヒーを混ぜてみた。
ペンキにコーヒーを混ぜるって、カフェならではですね!
そしたらいい感じの色になったの。塗って2、3日はコーヒーの香りが漂ってたな。
香りが消えちゃったのは残念です…。
インテリアにもこだわりが?
実はここに置いてある物たちの多くは、もともと捨てられるはずだったんだよね。
へえ〜!例えばどれですか?
割れて使えなくなったテーブルだったり、廃校になった学校の窓だったり。
カウンターとかの板は、今はアルミで代用されていることで使われなくなった大工さんの足場板だったり。
ここの改装をした時に天井から出てきたスピーカーも置いているよ。
これらが捨てられるものだったなんて、気がつきませんでした。
どうしてそういったものを置こうと思ったんですか?
『ハチワレ』っていう言葉の意味は知ってる?
ごめんなさい、分かりません…。
私が家で飼ってる猫の額がね、八の字に割れているような模様なの。
その模様の名前がハチワレで。
頭が割れているように見えるから、兜が割れる、みたいな意味で、昔は縁起が悪いと言われて、生まれてすぐに捨てられていたんだって。
模様で捨てられるなんて…。
今では、八の字は縁起がいいから良い猫とされているの。
もともと捨てられる運命だったものが、今の時代に可愛がられている。その話を知って、ここに置くものも、捨てられていた、あるいは捨てられるはずだったものを使おう、と思った。
その意味も込めて、『ハチワレ堂』っていう名前にしたんだ。
なんだか、「物は大切にしましょう」というだけの単純な話には聞こえません。
猫もそうだし、ものもそうだし、人もそうだし。
必要ないって思われているんだ、自分に価値はないんだって思わないでほしいというか。
正しい道なんて人それぞれだから、周りと違うことに対して落ち込まないでほしい。とりあえず、生きていれば大丈夫だよ、って伝えたいな。
そんな想いがあったんですね。
来た人全員に知ってほしいけど、なかなか話す内容でもないですよね。
今回インタビューできてよかったです。綾美さんの想いが、1人でも多くの人に伝わったらいいなと思います。
ありがとう。
(施工を担当した、アフロ巧業の伊藤誠さんと。)
『今この瞬間に、自分が自分らしくいられるかどうか。』
綾美さんは、それを大切にしています。
幸せな生き方とは、これ以上でもこれ以下でもないのではないかという気がします。
『生き方や暮らし方を選ぶ』というのは小難しいテーマに聞こえるかもしれませんが、案外シンプルに考えちゃって良いのかもしれませんね!
話す内容も、笑顔も、声も、全てが『あったかい』を体現している方だなと日頃から感じています。
私はこれからも、綾美さんに会いにハチワレ堂に足を運びます。
そして、ハチワレ堂を知らなかった人、気仙沼という街に興味が向かなかった人。そんな人たちにも、これを機に綾美さんに会いにハチワレ堂へ、そして、ハチワレ堂へ行くために気仙沼へ来てほしいです。
最後は、私が初めて写ルンですを買ってわくわくで撮った、オフモードの綾美さんの写真でお別れしましょう。ではまた!
【住所】
〒988-0077 宮城県気仙沼市古町4丁目1−34
【営業時間】
11:00-19:00
【定休日】
水曜日・木曜日
【電話番号】
0226-41-9052
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